酒房 ひで  日本酒コラム・エッセイ

 

ごほうびは日本酒で!(第2話)

〔 お 水 編 〕

 

 

 某 ビール工場に見学に行ったとき、意地悪な質問をコンパニオンにしてしまった。

 「ここのビールを仕込んでいる水は、何処の水ですかぁ?」

 てっきりここの地下水だと思っていた僕の質問にコンパニオンがマイクを握り締めて大声で答えてくれた。

 「ハイ!このまちの水道水で仕込んでいます!!」

 一瞬。場が静寂になったのは、お判りいただけると思う。素直に回答してくれた、可愛い、一所懸命なコンパニオンにツッコミする気もなくなった。

 このまちの水道の水源は自然溢れる山々から湧き出る水であり、その原水は極めて美味いのである。それを敢えてアピールせず、正直に「水道水です!」と(応答マニュアルどおりなのか)答えるのは、逆に正直な会社であると好感を持ったものだ(今はどう説明しているかは、知らないが)。 もっと恵まれない水で仕込んでいるビール工場は、沢山ある(ハズ・・・。

 さて、僕にとって旨い日本酒は、

  1.仕込んだ米の味がすること
  2.その酒を仕込んだ水の味がすること

であるが、特に仕込み水は日本酒の原料の80%を占める重要な素材である。

 水にこだわる蔵は良質の湧き水をタンクローリーで運び、さらに蔵で濾過して使うという、水道料金以上の金を掛けて良い水を確保している蔵もある。

 酒 造りに向いている水は、酒を醸す麹や酵母の栄養となるマグネシウム、カリウム等のミネラル成分が多く、酒の着色や劣化の原因となる鉄、マンガン、銅が少ないこと・・・

 少し専門的な言い回しになってしまったが、とにかく硬度の高い水が良いとされている。

 ミネラル成分が多い硬水は、麹菌や酵母菌等の微生物の活性が高くなりアルコール発酵が進みやすいという。一方で硬度の低い軟水は、ゆっくりと微生物が活動するため、時間をかけて穏やかに発酵させることが出来るそうだ。ついでだが、洋食は硬水、和食は軟水で調理した方が美味しいといわれている。水の性質がその国の料理の性質を自ずと規定しているともいえる。

 硬水を使い有名なのは「灘の宮水」で、この地域が日本酒の名産地であり現在も大手日本酒メーカーが多い所以である。一般に東日本は硬水、南日本は軟水が多く、軟水は造りづらいといわれているのだが、多くの蔵や関係者の努力により美味い酒が造れるようになったという。自然の恵みと造り手である人とのコラボレーションによって旨い酒は完成されるということであるが、それにしても水の占める重みは大きい。



 すばらしい水に恵まれた蔵元も数々あるが、秋田県境にある山形の蔵元「東北泉」は鳥海山のキリッとした伏流水が蔵の直ぐ真下を流れている。水の味を最後に味あわせてくれるここの酒は、爽やかさも伝わる名品、僕の好きなお酒のひとつでもある。
 こちらの蔵に限らず、肌が木目細やかな蔵元や蔵人多い。これは酒の効果もあるのだろうが、食事も含めた水の効果だろうと僕は思う。

 さ て、街中の生活では「伏流水」なるものとはすっかり無縁の生活となってしまったわけだが、代わりに水道局謹製のおいしい水がいただける・・・現代水処理技術の賜物ではあるが・・・

−ひ で−

今宵の隠れ家

きゃりっこ亭

仙台市青葉区国分町2丁目14-11
あるびすビル2F 
Tel.022-263-6010

 

  国分町のちょっと西の奥、入口に並べられた数々の銘酒の瓶が迎えてくれる。仙台の地酒専門居酒屋の老舗。

 恵比寿ビールと日本酒のみを頑なに貫いている。各地の蔵を巡り、作り手の顔が見える酒にこだわりを持ち、特に「十四代」と「東北泉」は、”旬”のラインナップを全て常備している。今や人気酒となった「伯楽星」はデビュー前の「愛宕の松」時代から応援していて、「綿屋」もここが発祥だ。蔵元も良く飲みに来る店である。

 一合徳利で出される酒を好みのお猪口に注ぎ手酌で一献。隣同士の客と「これどう思う?」と勧め合って利き酒することも・・・

 これも「皆でいろんな酒を味わって欲しい」という店主の心遣いのなせる技か。手作り焼餃子も人気メニューの一つ、日本酒との相性も是非試して欲しい。ついでに自家製レーズンバターもファンが多い。こちらも是非! 

 
今宵の旨酒

東北泉(とうほくいずみ)

 伝説の名杜氏、佐々木勝雄氏が蔵元と造り上げ、その名を冠した「大吟醸 佐々木勝雄」の「うすにごり」は、爽やかな香りの中で米の味を感じさせながら、鳥海山の伏流水の仕込み水の味しか残らないキラキラ輝くお酒でした。

 その名杜氏の下で修行し後を継いだ若き神(じん)杜氏もその味をしっかり守りながら、見習い時代も含め全国新酒鑑評会で8年連続金賞受賞という快挙を続けています。

「瑠璃色の海 純米吟醸」も是非!

合資会社 高橋酒造店

山形県飽海郡遊佐町吹浦字一本木57
http://www.touhokuizumi.co.jp/modules/myalbum/

2007年10月記

逃げろ

 

【 参 考 】

硬度(mg/L)=カルシウム(mg/L)×2.5+マグネシウム(mg/L)×4.1

概ね硬度100以下が軟水、200以上が硬水とされ、中間を中硬水と表現しているようです

ちなみに東京都水道局の浄水場からの水のデータを見ると、

東京の蔵元が集中している西部奥多摩地域は軟水傾向、

下流の多摩・武蔵野地域が中硬水傾向となっています

(蔵元の水は自前の井戸水でしょうから、この値とは異なります)

参考:平成18年度 東京都浄水場(出口)水質分析結果

年度平均値:東京都水道局

順位 市区

浄水場 硬度
1 青梅市 成木 成木 29.1
2 あきる野市 戸倉 戸倉 29.4
3 青梅市 御岳山 御岳山 31.5
4 青梅市 沢井 沢井第一 36.3
5 あきる野市 深沢 深沢 37.6
6 あきる野市 乙津 乙津 39.8
7 東村山市 中藤 中藤 43.4
8 武蔵野市 関前 45.3
9 青梅市 二俣尾 二俣尾 45.6
10 東大和市 上北台 上北台 45.9
11 羽村市 小作台 小作 46.6
12 立川市 西砂町 西砂第二 47.5
13 八王子市 高月町 高月 47.8
14 瑞穂町 箱根ヶ崎池廻 箱根ヶ崎 48.3
15 青梅市 千ケ瀬町 千ケ瀬第一 49.3
16 青梅市 沢井 沢井第二 50.1
17 青梅市 千ケ瀬町 千ケ瀬第二 50.3
18 あきる野市 上代継 上代継 53.6
19 稲城市 大丸 大丸 54.5
20 川崎市 多摩区三田 長沢 54.8
21 立川市 砂川町 立川砂川 54.9
22 東村山市 美住町 東村山 57.0
23 西東京市 芝久保 芝久保 57.1
24 東久留米市 南沢 南沢 57.6
25 小平市 小川町 小川 59.3
26 立川市 栄町 立川栄町 60.3
27 福生市 武蔵野台 福生武蔵野台 60.6
28 国立市 谷保 谷保 62.1
29 立川市 富士見町 富士見第一 63.6
30 八王子市 暁町 暁町 65.3
31 西東京市 栄町 西東京栄町 65.5
32 三郷市 彦江 三郷 66.2
33 葛飾区 金町 金町 67.4
34 西東京市 保谷町 保谷町 67.8
35 多摩市 桜ヶ丘 桜ヶ丘 68.5
36 府中市 南町 府中南町 69.3
37 日野市 南平 南平 70.9
38 町田市 旭町 滝の沢 71.1
39 日野市 三沢 三沢 71.3
40 稲城市 坂浜 坂浜 71.8
41 府中市 武蔵台 府中武蔵台 72.1
42 日野市 多摩平 多摩平 72.1
43 三鷹市 上連雀 上連雀 74.3
44 小平市 上水南町 上水南 74.5
45 町田市 野津田町 野津田 74.9
46 板橋区 三園 三園 75.5
47 国分寺市 北町 国分寺北町第二 75.5
48 杉並区 善福寺 杉並 75.7
49 立川市 富士見町 富士見第三 77.0
50 立川市 柴崎町 柴崎 77.9
51 狛江市 和泉本町 和泉本町 80.4
52 小金井市 梶野町 梶野 82.5
53 朝霞市 宮戸 朝霞 82.6
54 八王子市 子安町 子安 84.5
55 府中市 若松町 若松 84.8
56 調布市 深大寺南町 深大寺 86.3
57 府中市 幸町 幸町 87.0
58 多摩市 中沢 落合 87.6
59 日野市 大阪上 大阪上 88.6
60 町田市 原町田 原町田 88.8
61 三鷹市 新川 三鷹新川 89.9
62 世田谷区 鎌田 砧下 90.3
63 世田谷区 喜多見 92.9
64 国立市 国立中 101.0
65 日出町 大久野落合 大久野 102.0
66 調布市 上石原 上石原 114.0
67 調布市 仙川 仙川 114.0
68 国分寺市 東恋ヶ窪 東恋ヶ窪 143.0